2012.11|「I Love Kyoto Kaikan」運営人河本順子さんインタビュー公開中

6.12.2012

QC3|09 ナデガタ・インスタント・パーティー 「「地域活性化」の論理といかに距離を取り、出来事を作品としてどう残すか」



3/4 <「地域活性化」の論理といかに距離を取るか?>
4/4<「作品」として何を残すのか?>はこちら
--



《全児童自動館》2012, アーティスト・イン・児童館、中村児童館(東京)
 ©Nadegata Instant Party


―全児童自動館では「撮影をしている」という状況に参加している実感があるので、観客にとっても居場所や役割があるように感じられて面白かったです。いわば「口実」が役割を与えているとも思われますが、その「口実」についてどのように考えていらっしゃいますか?


中崎:家族であれ学校であれ、私たちには日常的に役割が設定されていると思います。「口実」とは言え、それは現実にある役割とあまり変わらない。それを嘘だと言ったら全部嘘になってしまう、とか、この現実の役割が本当だったらこれも本当なんじゃないか? と思わせる、そんなギリギリのところを問いかけたいと思っています。


―それをうまく作動させるために大事にしていることは何かありますか?


山城:この全児童自動館でも他の作品でも、一言でイメージさせられなかったらダメだと思っています。美術専門の人でもそうでない人でもそう。「今度喫茶店やろうとしてる」と言ったときにイメージできるじゃないですか。ヘンな喫茶店なんだろうけど、一応テーブルがあって椅子があって人がお茶してるんだろうな、って。それが「実は奈良にあるすごく大きな木に穴を掘って喫茶店やるんだ」なんてことにでもなれば「ええっ!?そんなことしていいの?」なんてリアクションが返ってきたり。ともかくすごいたくさんの人が集まると思うんです。一方で僕らがつくりたいものが先にあって、それをするために木を使ったアート作品をつくります、と言ってもみんな想像できないというか、「アーティスト先生がつくりたいものがあるんですね」なんてことになりかねない。それは避けたいんです。「その船乗ったら面白そう」と思ってもらえるように気をつけていますね。

それはつまり「今美術作品をつくるって何なのか?」という話にしたいんですけど、誰もつっこんでくれない。とはいえ質問されても答えられないことも多くて「これ本当にしたかったのかな?」と思うことは多々あるんです。今回も映像を編集しながら、みんなが調子に乗ってどんどん「監督!監督!」って言い出してきて、そういう役割面倒だなと思ったりするんですが、その役割与えてるのはこっちだなとか思い直したり…


―ナデガタは地域活性を目的にしていないと言われていますが、逆に地域活性という枠組み自体も制作の手がかりとして利用しているような気がします。その距離のとり方はどのように考えていますか?


山城:距離はとっていないですね。そのなかでやっているというイメージです。

中崎:ただ僕らは三人がそれぞれちょっとずつジャンルが違うんだけど、でも共通してるのは美術作品をつくっているということ。だからこれは美術館の問題にも関わってきます。美術館の仕組みは今でも絵画や彫刻ベースでつくられていると思っていて、そこに作品をつくるための予算というのは少ないんです。作家がアトリエを持っていて、そこで作品をつくり、美術館へ運んで飾る。そして出来上がったものはどこかマーケットで売ってください、もしくは一部買い取ります、という仕組みでできている。日本の美術館関係の現代美術をやっている人たちはここ20年くらい色々な裏技を使いながら「形のないものにどういう名目だったら予算が出るか」というところを開拓してきてくれたと思うんです。けれどその結果、行政のなかで一年間でこういう消費をしました、という予算で動いているケースがすごく多くて、地域活性化関連の仕事もそういう予算の枠組みで来ることが多いんです。

でも別に僕らはそのときにファシリテーターとして「いいお兄さんお姉さん」を演じて日給いくらもらう、という仕事をしているわけではないと思っています。もっと世間に触れていると思っているし、もっと考え方やアクションを定着したいと思っているし、その行為自体100年後やもっと先の人間ともコミュニケートできるようなものでありたいと個人的には思っています。だから「こういうところにお金使いました」「それで何人きました」「盛り上がりました」「公共のお金を入れてよかったですね」という地域活性化における行政的論理にはあまり関わりたくないと思っているし、「地域活性化」という名目でいながらそこで終わらない作品をつくりたい。事実そういう予算から仕事が来るケースあるけど、それに答えることだけが目的かというと明確にそれは違います。

野田: マネジメントしている立場から見ると、ナデガタはすごくアートプロジェクトに呼ばれやすくて、実際にこれまでの作品のほとんどがそういった枠組みの中で制作してきました。でも私たちにとっては地域活性それ自体が目的じゃないから、それを逆手にとっているということも事実です。例えば「どまんなかセンター」の月見の里学遊館が「市民スタッフ運営型」と謳った「新しい公共文化施設」として打ち出しているんだけど結局地元になじんでないじゃないかという批評でもあったんです。

中崎:よそものが来ないと見えない視点があると思うんです。例えば皆が祭って命がけになっているのはただの石だよと指摘したり、その中にいたらできないこと、そこは意識したいなと思っています。


《Instant Scramble Gypsy》2011, 月見の里学遊館(静岡)
「どまんなかセンター」での風景
 ©Nadegata Instant Party





--
プロフィール
Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)
中崎透、山城大督、野田智子の3名で構成される「本末転倒型オフビートユニット」。2006年より活動を開始。地域コミュニティにコミットし、その場所において最適な「口実」を立ち上げることから作品制作を始める。インスタレーション、イベントなどに様々な人々を巻き込み、「口実」によって「現実」が変わっていくプロセスを作品として展開する。代表作に《Riversible Collection》2009年(水戸芸術館現代美術センター)、《24 OUR TELEVISION》2010年( 青森公立大学 国際芸術センター青森)、《Yellow Cake Street》2011年(Perth Institute of Contemporary Arts)がある。今後の予定として「開港都市にいがた 水と土の芸術祭2012」(新潟市内全域)、「街じゅうアートin北九州2012 ART FOR SHARE」(北九州市内)、「MOTアニュアル2012」(東京都現代美術館)への参加を予定している。