2012.11|「I Love Kyoto Kaikan」運営人河本順子さんインタビュー公開中

3.06.2012

QC3|08 林憲吾「ある町並みを考えることが、よりグローバルな地域に貢献する」



4/6 ミクロとマクロを行き来しながら考える
3/6はこちら5/6はこちら
--



―こうした町並みを起点とした地域調査の利点とはどのようなところにあるとお考えですか?


まず、なぜそういう町並みができ、なぜそういう分布をしているのか、ということを考えたときに、歴史的な条件や地形などの自然の条件、その地域の社会状況などがその町並みに影響を与えているだろうと予想されます。それを分析することで、地域の特性や住まい方をもう少し建築的なところから理解することができるのです。いわばスタート地点として建築がある。大抵はまず地域やコミュニティ、つまり住んでいる人が先にあって、そこからある特定の範囲が地域として浮かび上がって来ると思います。それは当然なのですが、先にもお話した通り、建築を専門としているとまず異なった町並みが見えてくるわけです。なぜここはこんな町並みになっているんだろうというシンプルな気づきから、都市の特性、住んでいる人の特徴、あるいは歴史など考えるきっかけになれば面白いなと思っています。地域をそのように細かく観ることができれば、地域のコミュニティを考えるだけでなく、そこに適したいい環境の使い方を発見したり、逆に地域の環境状態をどう構築するかを考えられると思います。


前出】「土地利用」、「人口密度」、「高さデータ」、「土地被覆」のデータから目視結果をもとに数理解析して分類した4つの町並みの分布
(東京大学・三村豊作成)


三村豊】僕はデータ解析を担当しているのですが、その立場から少し補足させてもらいます。先ほどの目視の分類のなかには果樹畑型と水田農村型という二つのタイプがあるんですが、この二つの違いは数理解析をしていても出せないんですね。ただ、歴史的に見ても、実際に見に行っても、そこのライフスタイルや地域の状態に違いがある。現状では、お話があった通り元々は7分類で行きたかったんですが、僕の技術不足なのかデータ不足なのか4分類までしかできていません。もちろん目視が感覚的な部分に頼っているいうこともあります。そのため、いまのところは果樹畑型や水田型の分類はひとつにせざるを得ないのですが、一方で私たちはフィールドで得た情報や感覚を大事にしたいという思いは常にあります。それを客観的なデータに落とし込めたら、ジャカルタの都市内の多様性はもちろん、他の地域と比べたときにどれだけ多様なのか、という話もできると思うんですね。


―そのあたりはまさに環境と結びついていると感じます。福島の原発をつくる際、東京の業者が来て土地を選んだらしいのですが、実はその場所は地下水が豊富で地盤が弱かった。現地の人からすると「なんでこんなところに?」というような場所だったそうです。実際現地に行くとそこだけ豊富な地下水のおかげで木が高いんですね。そうした感覚的な部分をいかに共有可能な知識に反映するかという問題は重要な課題だと感じます。


はじめのうちは歴史的なところを調べていたのですが、今は現在の状況をどう理解するかというアプローチに寄ってきています。ジャカルタではいま高層の建物がどんどん建てられてますが、リモートセンシングを専門にする人と協力して、衛星画像から建物の高さを出して、その分布を全量的に把握することもやっています。ただこれも実際フィールドでの観察と併せてやっているので、現地の草木などを観たりして、どうも元々湿地だったところに高層建築が建っていることが多いということなどがみえてきます。


高層建築を建てるというときに、カンポンを取り潰して強制撤去し、そこに大きい建物を建てる、という構図がイメージされるかもしれませんが、ジャカルタはそういうケースはまだ多くありません。地域住民がいるところよりも、利用されてない土地に建っていくわけですが、どうもそれが湿地だったり元々良好な土地ではないということがままあります。そこが宅地へと変わっていった結果、洪水などのリスクも高まっているのではないかと思います。ですので、何年前の土地被覆と重ねて、高層建築の場所と過去の土地状態との関係を探るなどのリサーチも進めています。


―町並みを起点としたジャカルタの把握も、今お話された高層建築に関わる調査も、ミクロとマクロとを行き来しながら思考を検討するということに特徴があると思います。これまでのリサーチに対してこうしたリサーチの特殊性はどこにあるのでしょう?


ティポロジアとか陣内秀信さんなどがされてきたことなどにも通じますが、歴史的な時間の積み重ねにより、町並みはあるパターンを持つし、そこに建てられる建築もあるパターンを持っています。それはフィールドから得られることなんです。ところが、ある地域では、みんな感覚的にも研究的にも共有できることが、都市全域でどうなっているかはよく分からない。歴史的な背景が地域の変遷に影響していて、それを建築史は扱ってきました。でもそれは局所的なことなんです。例えば戦後ジャカルタはどんどん拡大を続けていますが、これまでのフィールド調査での蓄積があるのはあくまでも中心部だけなのです。

フィールド調査は一般的にサイトスペシフィックに行うものですが、メガシティほどの規模になるとサイトスペシフィックな視点だけで全域を見通すことは不可能です。例えば日本でしばしば聞く地方の中心市街地の活性化というのは、「この地域を活性化すれば全域にも利いて来る」といういわば「ツボ」が感覚的に分かっている状態だと思うんです。でもジャカルタの場合、スケールが大きすぎてそのツボすらわからない。東京だってそうでしょう。そういうときにその間を繋ぐ考え方が必要になります。つまり、フィールドで得た感覚を全域まで拡張し、そこから見えてくるものを再度検証するためにフィールドに戻るというフィードバック。これが可能になれば、ある地域をやりながら別の地域のことも考えられるはずです。このプロジェクトが最終的な目標としているのは、そうした状況ですね。



5/6へ続く