2012.11|「I Love Kyoto Kaikan」運営人河本順子さんインタビュー公開中

3.06.2012

QC3|08 林憲吾「ある町並みを考えることが、よりグローバルな地域に貢献する」



2/6 1000万という人口規模を相手にする
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―林さんは現在「総合地球環境学研究所」という研究機関に在籍されていますが、ここでのプロジェクトについてご説明いただけますか?


ここでのプロジェクトは、先ほど名前を出した僕のボスに当たる村松さんが応募したことからはじまりました。ここは地球研というくらいなので、環境を主とした機関であって建築の専門機関ではないんです。かといって建築や都市からそこへアプローチできないわけではありません。実際、2007年から2008年にかけて世界人口の半分が都市に住むというデータが出たように、都市の存在が世界的にますます大きくなっている。ところがこの地球研にはひとつも都市の研究がなかったんですよ。だから都市が地球環境にどういう影響を与えるのかを研究するプロジェクトを立ち上げようと、ジャカルタを対象とした研究を応募したわけです。


総合地球環境学研究所エントランスにつづく小道


とりわけ先進国はグリーンテクノロジーの開発、コンパクトシティの提案など、早い段階から都市と地球環境問題にアプローチすることをやってきたのですが、途上国はそうではない。むしろ近年では、先進国での技術や計画を途上国にそのまま移転する動きが広がってきています。こうした状況に対して文化的な背景も違う途上国なりの解法を考えたいと思っていました。なかでもジャカルタを選択した理由は、いまメガシティという1000万人を超える人口規模の都市が途上国でいくつもでてきていて、ジャカルタはその重要な一例だということがあります。


都市は自然環境的な要素に対してインフラや建築物などの建造環境が優位を占めています。都市と地球環境研究では、自然環境については調査されますが、建造環境をしかもミクロレベルから観ることはまだ十分にされていません。だから僕らは、建物や街区が歴史的にどう変化してきたか、どういう間取りや暮らしをしているか、といういわゆるこれまでの歴史的な研究をベースにしながら、環境負荷を減らすような提案につなげるための基礎的な研究を行おうと考えています。


―メガシティに関して、さきほど1000万という人口規模が出ましたが、これはあくまでも定義の問題だと思います。なぜその規模を選ばれたのでしょう?


そうは言っても、人口規模はひとつ重要な問題としてあると思うんですね。しかも、これまでになかった規模での集積が起こっている、というのは事実です。さらにいえば、日本のように人口が縮小していく国もあるわけですから、大都市の人口規模がこれからますます大きくなるといったケースは少なく、世界の大都市トップ数十の人口拡大が頭打ちになる規模が、だいたいこのくらいだとはいえます。ただ、それが1000万という数字で切れるか、という問題は確かにあるでしょう。あとひとつの問題は、都市の定義が曖昧で、都市人口の取り方も曖昧なことです。国によって違いますし、国連が出している推計にみんな同意しているわけではない。基本は、行政区域をベースに人口を捉えるので、東京大都市圏のように市域を越えた人口集積を考えたら、人口1000万がどれくらい特殊なのか? ということはよく尋ねられたりすることなんです。

全球の1キロメッシュの人口データ(ORNL LandScan 2007をもとに千葉大学・内山愉太作成)


そこでプロジェクトでは、行政界に縛られず全球のメッシュの人口データを使って都市の集積を捉えています。これは千葉大の内山くんという学生が研究していて、地球全体を一キロメートル角のグリッドに分けてそれぞれのグリッドに何人住んでいるかというのを推計した人口データがアメリカの「ORNL(Oak Ridge National Laboratory)」というエネルギー・環境系の研究所でつくられていて、そのデータを使って調べています(上写真)。そこで都市をどう定義するかなのですが、仮に都市という場所は農村よりは人口密度が高いところだと考えてみます。すると各グリッドには密度の高いところと低いところがいろいろとあるわけですが、地球上で人口密度が一番高いグリッドから順にみていって、その人数をどんどん足していくと、あるところで世界人口の半分を超えます。その超えたところが、大体2000人くらいの人口密度なんです。都市人口が世界人口の半数を上回ったわけですから、いま数え上げた人口密度が2000人以上の部分を都市と考えて、2000人以下
の残ったグリッドの領域を農村と考えてみてはどうか。要するに、地球上で人口が1キロ四方あたり2000人以上のグリッドだけを表示させて、それを都市のかたちと捉えるということです。

ジャカルタ近傍の人口データ(人口密度2000人/km2以上のみ表示)(ORNL LandScan 2007をもとに千葉大学・内山愉太作成)


それで例えばジャカルタ近傍を見てみると、ジャカルタはいまジャカルタ市周辺の通勤圏も含めて東京のようにジャカルタ大都市圏(通称、ジャボデタベック)を形成してますが、2000人以上が住んでいるグリッドが連なってできた領域は、一般に捉えられている大都市圏の範囲とだいたい重なります(上写真)。東京圏を見てもおおよそそうです。そうしたことから考えて、1キロ四方あたり2000人以上が住んでいる場所が都市で、それが連続してひとつのかたまりになっている範囲を一つの都市と見なすというやり方は、このデータに基づけばそれほど変な見方じゃないんです。そして、この結果を使って都市の分布をみても、ものすごく大きな都市というのはあまりないんです。人口規模と都市の数の関係は、ベキ分布のようになっていて、小さい都市がばーっとある。ということは、やはり過度に人口集積するような場所はそんなに簡単に生まれるわけではなく特殊だといえるわけです。なので、こうした人口的特徴を持ったメガシティというものを研究しているんです。



3/6へ続く