今回お話をうかがった「ナデガタ・インスタント・パーティー/Nadegata Instant Party」は、中崎透(上写真右)、山城大督(同左)、野田智子(同中)からなる(本人達曰く)「本末転倒型オフビートユニット」である。各地の地域コミュニティに関わりながら、ありそうでなさそうな設定をつくりだし、人々とともにインスタレーションや映画、イベントなどを作品として制作する。その際の設定はいわば「口実」でしか無く、その口実のもと生まれる出来事やコミュニケーションの方へと眼差しを向けているところに彼らの特徴がある。こうした概説から思い浮かぶかもしれない「地域活性」を必ずしも目的とせず、しかし、地元の人、参加者、行政、それを見る人といったレイヤーの複数性を意識する彼らは、そうした枠組が持つ構造そのものを可視化してくれているように思われる。また彼らはあくまで美術作家として、アイデアを実現するプロセスを作品化することにきわめて意識的である。地域に関わっていくなかで、何をどのように残していくのか? ナデガタ・インスタント・パーティーという美術作家による問いかけから見えてくる「地域」との関わり方について考えていきたい。(2012.03 新宿らんぶるにて)
1/4 <シチュエーションのなかでどのようにアイデアを実現するか?>
※2/4 <地域のなかへどのような「口実」をいかに導入するか?>はこちら
--
―まず「ナデガタ・インスタント・パーティー」がどのような活動を行なっているか教えてください。
阿佐ヶ谷住宅の展覧会【註:2007年「Install Party」】では、天井からバナナがつり下がっていて、そのバナナをオーナーが取ろうと思うんだけどちょっとだけ背が足りなくて取れない。取れないから70センチ床をあげたらいいんじゃないか、というアイデアを実行しました。そもそも「バナナを取る」という目的はあるんですが、別に誰も取りたいなんて思ってないし、取るなら椅子を持ってきたらいいだけなんですが、床をつくるという口実によって、展覧会だと思ってそこに来た人たちが手伝ったり、インスタントなパーティーが生まれたらいいなというのが最初のプロジェクトでした。
《Install Party》2007, TOTAN GALLERY(東京)
©Nadegata Instant Party
《Reversible Collection》2009, 「現代美術も楽勝よ。」水戸芸術館現代美術センター(茨城)
©Nadegata Instant Party
《Offline Instant Dance》2008, 「Akasaka Art Flower 08」旧赤坂小学校(東京)
©Nadegata Instant Party
《Boogie-Woogie Install Date》2007, 旧中工場アートプロジェクト「わたしの庭とみんなの庭」(広島)
©Nadegata Instant Party
―山城さんと中崎さんの役割分担はどうなっていますか?
野田:その時に思うのは、二人ともめちゃくちゃなことを言うんですよ。というか、実現できるかどうかのギリギリのことを言う。しかも無責任に言ってて、もちろん愛があるんですけど、どんどん、どんどん加速していくんです。中崎が言ったことに山城が反応してイメージを膨らませ、またそれに中崎がキーワードを言って増やしていく。小さなパーツが蓄積していくという感じがあります。
中崎:無責任とは言え本当にできないことはやろうと思わなくて、経験的に「これはこうなったら大変だしギリギリだけど多分できるだろうな」ということを言っています。だから、宇宙に行きたいとかは思わない。この予算規模の、こういうフレームの、こういう企画でこういうところから実現された時に、ここは多分こういうルートを使ったらできる可能性があるな、ということからしか考えていないですね。
―今回私たちがナデガタ・インスタント・パーティーにインタビューしたいと思ったのは、静岡の「どまんなかセンター」で地域と関わり、それが一見すると地域活性化的なプロジェクトに見えたということがあります。その背景と意図について詳しく教えていただけますか?
《Instant Scramble Gypsy》2011, 月見の里学遊館(静岡)
「YAH!YAH!YAH! わたしの袋井写真展」展覧会風景
©Nadegata Instant Party
「どまんなかセンター」外観
©Nadegata Instant Party
当初思ってた以上に場所の力が強くて、この地域の人たちだけでこの場所を面白く使える人が出てきました。近所の自治会の人から始まって、おじさんたちがそこでライブをしたり、お母さんたちがクリスマスパーティーをしたり、小学生が毎日来るようになったり、元々ある空間がすごくよかったから人が集まるようになって、僕らが設定していたよりもうまく機能して今もまだ続いています。その活動を新聞で見て、僕らが新しくつくったということを知らずに「どまんなかセンター」に来てる人たちもいっぱいいるんです。そういう僕らがつくったフィクションのストーリーのもとに現実の人たちがその場所を使い続けているという状況が面白いなと思っています。
--
プロフィールNadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)
中崎透、山城大督、野田智子の3名で構成される「本末転倒型オフビートユニット」。2006年より活動を開始。地域コミュニティにコミットし、その場所において最適な「口実」を立ち上げることから作品制作を始める。インスタレーション、イベントなどに様々な人々を巻き込み、「口実」によって「現実」が変わっていくプロセスを作品として展開する。代表作に《Riversible Collection》2009年(水戸芸術館現代美術センター)、《24 OUR TELEVISION》2010年( 青森公立大学 国際芸術センター青森)、《Yellow Cake Street》2011年(Perth Institute of Contemporary Arts)がある。今後の予定として「開港都市にいがた 水と土の芸術祭2012」(新潟市内全域)、「街じゅうアートin北九州2012 ART FOR SHARE」(北九州市内)、「MOTアニュアル2012」(東京都現代美術館)への参加を予定している。