1/5 <どの立場の人も自分の正しさを主張する>
※2/5 <分かり合えない、ということを前提にする>はこちら
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失われるシーン:疏水側から第一ホールを眺める 撮影:松隈洋
―まずなぜこのご活動をはじめようと思われたのでしょうか?
2011年2月23日に、京都のSocial Kitchenという場所で京都会館再整備に関する意見交換会がありました。「KYOTO EXPERIMENT」という国際舞台芸術フェスティバルのプログラムディレクターをされている橋本裕介さんが「2020年の京都の舞台芸術環境を考える会」を発足され、京都会館の建て替えについて提案を行いたい、と。その提案にみなさんが賛同してくれたら、これをまとめて要望書として京都市に提出するということを前提とした会です。橋本さんはその前にも何回か関係者と会合を重ねられて、ご自身たちの方針や希望をまとめたきちんとした要望書をつくっておられた。そのための意見交換会でした。
京都会館再整備に関する意見交換会(参照)
私は偶然その場にいたのですが、約2ヶ月前に新聞報道で京都会館を「最大級オペラ劇場」にすると発表があり、関心が集まっている時期でした。この時期京都会館の建て替え問題について話し合える会を持ったのがこの場しかなかったんです。その結果、京都会館に関心のある方が一同に介す場になりました。その中で様々な意見が出たのですが、印象的だったのが、松隈洋さんという京都工芸繊維大学の先生が「建て替えるということよりも、どうして今の建物を使い倒すということを考えてくれないのか」ということを言われたんですね。松隈先生は元々京都会館を設計された前川國男事務所に勤められていて、晩年の前川先生に師事されていました。学生の頃に京都会館を見て前川事務所に進むことを決められたほど熱心に京都会館のことを考えておられる方です。
私はそれを聞いて「なるほどな」と思ったんです。京都に引っ越してきたのは数年前ですが、正直に言うと、私はそれまで京都会館を知らず、行ったこともありませんでした。そこで松隈先生のお話を聞いて、リアルな問題として京都会館が出てきた。そこでさらに思ったことは、京都会館保存問題に関わることで京都の様々なことを知るきっかけになるんじゃないか、ということでした。そこで何か行動を起こそうと思ったのですが、いわゆる市民運動のようなことを今までやったことがなかったんですね。しかも一応勤めも持っていますし、どう関われるかを考えたときに、例えば市役所の説明会をこまめに聴きに行ったりすることはできないな、と。自分が仕事を持っていて、それでもできる協力の仕方を考えたときに、例えばインターネットを使ってブログで情報発信をするくらいならできるかなと思いました。
ウェブサイト「I Love Kyoto Kaikan」
ただ、いわゆる市民運動の一環としてのブログや情報発信を見ていると、その人自身の考えを載せたものは思い入れが強すぎてあまり賛同ができなかったんですね。もちろん、それが駄目と言ってるわけではありません。私は、可能であればそうではない形の発信方法を今回はしたいなと思いました。
―なぜ「I Love Kyoto Kaikan」というタイトルにされたのでしょうか?
いざブログをはじめようと思い立ち「京都会館問題の〇〇反対運動」みたいなタイトルを一応つけてみたんです(笑)。でも、どうもしっくりこないんですね。考えてみたらそれはその通りで、ついさっき皆さんのお話をおうかがいして、「関わりたい」とは思ったけれども、それ以上のスタンスはないわけです。まだ白紙状態です。ただ必ず毎日5分でいいからこの件について考えることと、一人でできることにこだわってみようと決めたことから、そういう流れでふと浮かんだのが今のタイトルでした。
―「I Love Kyoto Kaikan」を運営する中で建て替え反対派/推進派の方との間でどのような協力関係が築けましたか?
ブログを立ち上げてしばらくすると「こういうことを人に知ってもらいたいのだけどインターネットの使い方がわからない」等という悩みを抱えている方がたくさんいらっしゃることを知りました。「この要望書を載せて欲しい」ということを依頼されることもあります。また、地元の方が紙で配ったものをウェブサイトでも見ていただきたいということで、掲載させてもらうこともあります。
「岡崎公園と疏水を考える会」要望書
例えば「岡崎公園と疏水を考える会」は地元岡崎の市民団体ですが、定期的に出されているニュース紙があります。それをいくつか公開させていただいてます。ブログ上にある「ニュース/配布物」というタグで出てきます。
―「岡崎公園と疏水を考える会」とはどのような団体なのでしょうか?
「岡崎地域活性化ビジョン」より(参照)
そもそも京都会館の改築は「岡崎地域活性化ビジョン」という京都市が考えている都市計画の一環として位置づけられます。今後の岡崎地区再開発計画の露払い的な役割を担うものです。その動きをきっかけに結成された地元の市民団体です。岡崎活性化というプランに対してそれが正しくなされているのかをウォッチし、その中で京都会館の改築もひとつの争点として同じくウォッチしている団体です。もちろん、ご自身でもウェブサイトを持っておられますが、更新がままならないこともあるようで、最近では私のところでもできるだけ情報を掲載しています。
「岡崎公園と疏水を考える会」ウェブサイト(参照)
団体としては他にも「京都会館を大切にする会」という団体があります。これは地元の建築家を中心とした建築専門家の団体です。彼らはシンポジウムを企画することが多く(「京都会館再整備をじっくり考える会」と共催)、そのときの記録映像、資料、要望書ももちろんですが、「京都会館のより良き明日を考える」というシリーズで動画をブログに公開しています。また他の団体等の記録映像や資料も「I Love Kyoto Kaikan」に挙げています。「世界遺産40周年市民プレシンポ」というのがこの前ありましたが、この時はその資料や音声記録をブログに掲載させてもらいました。
「京都会館を大切にする会」ウェブサイト(参照)
どうしても市民の活動記録はなかなか残らないことが多いんですよね。せっかくなので、京都会館に関わるものは、ご了承をいただいた上で全部残そうと考えています。
―今どのくらいの方が見ていますか?
その時々の状況によりますが、今はユニークアクセスで200くらいですね。
―一番多かったときは?
一日3000くらいですね。
―それはいつくらいですか?
おそらく2011年の12月くらいじゃないでしょうか? 先ほどもお話した「第2回緊急シンポジウム京都会館のより良き明日を考える」というシンポジウムがあった時期です。
シンポジウム「京都会館のより良き明日を考える」USTREAM画像より(参照)
―情報収集とアーカイブをつくる上でタグのつけ方には様々な可能性があったと思いますが、現状のようになっているのは?
「I Love Kyoto Kaikan」タグ
エキサイトブログを使っていますが、制約上タグが20しか表示できないようです。だからこういう大枠のつくり方しかできません。もう少し細くつけたいなという思いがあります。今からでも改善したいことの一つです。
―どのような団体が京都会館に関わっておられるか、という点だけでも見えると興味深いなと思います。
署名を行われている団体をいくつかまとめたものはあります。「京都会館を大切にする会」、「岡崎公園と疏水を考える会」、「京都会館再整備をじっくり考える会」。それからリストには入っていませんが、「2020年の京都の舞台芸術環境を考える会」も関係団体でしょう。それからまちづくり団体に関わっている方や、京都弁護士会さん。少し手遅れかもしれないですけど、こうした情報の整理はやらないといけないと思っています。
―「I Love Kyoto Kaikan」のきっかけについて先にお話してもらいましたが、実際に続けられる中で見えてきた運営上の課題や可能性についてお話いただけますか?
この運動に限られませんが、状況を客観的に見る人が必要ではないかということで、一歩引いて見ようと最初は心がけていました。けれど、関わっていく中でそんなことも言っていられなくなってしまいました。とはいえ、全面的に「間違っている!」と感情的に言うことはやっぱり違うなと。今は「ガチ」で関わりながらも一定の客観性を担保する方法はあるのかないのか、ということを考えています。
ブログには京都市の発表資料もアップしつづけています。実を言うと、最初は全く面白みを感じませんでした。読みたいとも思いませんでした。ところが変なもので、慣れてくると興味がだんだん湧いてきて、資料が読めるようになってきたんですね。そうすると実際に委員会や議会で何が行なわれているのか知りたくなってきました。ということで、結果的にはほぼ全部の委員会に出席していました(笑)。そうすると当たり前ですが、関わっている人たちはみんな何かしら少しくらいは考えているらしいということが見えてきました。最初は「建て替えをするなんてナンセンス」くらいの意識でいましたし、例えば市長が悪いとか、行政の責任者だけが悪いとか、単純に思っていました。ところが、実体はそういうことではないということが見えてくる。特定の人に責任を負わせたら解決できることでなく実は事態はもっと深刻なんですね。これは大変だなということと、「それをどうしたらいいのか」ということに着眼点が変わっていきました。
また、活動をしているうちに気になってきた点としては、私も含めて、どの立場の人も自分の正しさを主張するのですが、人のことにはあまり興味がないのかな、ということです。たとえば、理論的に自らの正しさを伝えることができる人でさえも、相手が言っていることを参照するのかというとそうでもなかったりします。忙しいということもあるでしょう。違う立場の、違う意見を聞くという機会がないんだろうな、ということを感じました。特に京都市の対応にはそのことを強く思いました。それをどうしたらいいかということにも関心が出てきています。
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プロフィール河本順子
京都市在住の会社員。現代美術講座「高嶺格:アーティストワークショップ」(2006年)への参加がきっかけとなり、公共と個人の関係性について興味を抱くようになる。そのための方法論を市民の立場より考えることについての思考を継続中。台所大学picasomに参加(2010年 - )市民のための「政治」ワークショップ(2011年)グルジア椅子ワークショップ(2012年)