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5.08.2011

QC3|02 岡田知弘インタビュー「経済学的観点から地域という複層を見る」



「経済学的観点から地域という複層を見る」後編
岡田知弘インタビュー




後編 「「地域内再投資」という考え方
文字起こし:佐藤敏宏


—なぜ京都で上越市のような例が見られないのでしょう?


政令市である京都市の場合、地方自治法によって、市の執行機関として、つまりサービスの出先機関として区をおかなければならないという構造になっており、歴史的に区役所というのは市の行政機関の一部となっており、自治区的な仕組みになっていないということがあります。たとえば観光で賑わう東山区の人口は、京都府北部の綾部市とほぼ同ぐらいです。綾部市の予算規模は160億円ぐらいです。もし、東山区が東京都の区のように基礎自治体だったら、区内のことについてはなんでもできるのに、それができない。上越市のように公募公背で住民代表が選ばれ、区民協議会的なものをつくり、お金の使途を決めて行くことができれば、地域の中の交通問題、観光問題、福祉の問題、治安の問題などを横断的につなげて対応していくことができる。そんなまちのつくり方を制度的にもやっていくべきではないかと僕は提案しています。それをしないがために、京都市役所本庁に年間1兆円近く財源が集まるのに、結局高速道路建設などの大規模投資に行ってしまう。上越市のように地域の個性に合わせて、住民の産業、生活支援のための予算配分がなされないわけです。僕は「地域内再投資が必要」と言っているんですけど、税金を納めている所に住民も意思決定に参加しながら再投資をしていく、という行政の仕組みに換えていくべきです。


—いまの京都市の例は、税収は入ってくるんだけども制度的なレベルでそれを還元できていない、という話だと思うんです。他方で、地方はそもそも収入の面でより制限された状況になっているのではないでしょうか?


財政危機は確かに深刻ですが、それはいまの地方財政制度や税率を前提にしている限りのことです。また、財源を増やすための基本は、地域経済に税金を納める力をつけていくこと、つまり担税力をつけることにあります。地域経済を持続的発展を行うための基本は、先ほどの地域内再投資力を、地域の資源を活用しながら、京都の企業をはじめ経済主体が高めていくところにあります。そういう視点から見ると、僕はそんなに悲観的に見る必要はないと思っています。とくに、京都にはたくさん地域資源があります。


長野県の栄村という新潟県沿いのところをひとつお例に出してお話してみますね。千曲川が信濃川に切り替わる所で、野沢温泉スキー場の隣です。雪が通常年でも3mぐらい積り、3ヶ月間根雪になるところで、人口も2500人を割ってしまっています。高齢化率も40%。何にも無い村だと言われてきたところです。


この村で1988年から、村の職員だった高橋彦芳さんが村長になりました。これまで国や長野県の言うことばっかり聞いて企業誘致や減反政策をしてきたけれども、村の経済は良くならなかった。人口もどんどん減って高齢化が進むだけ。だからもう上を見るのをやめよう、足元を見ようじゃないか、と言う政策を掲げたわけです。空き家になった農家を村が「ふるさとの家」として活用し、そこに都会から来たグループや家族に一週間ぐらい泊まってもらうんです。最初は栄村を体験して、村の良いとこ悪いとこ探しをしたそうです。そこで村の人たちが作った料理を食べて「美味しい」っていうふうに都会の方が言ってくれるわけです。それで村の高齢者がものすごく元気になるんですよ。「都会の人に自分たちが作った料理、合うかな」「こんな物でいいんだろうか」って思ってたところで、出してみたら「とてもおいしい」と。水がおいしいし食材が良いからなんですね。


それで自信を持っていくんですけれども、そのうちそのお客さんの一人が家の天井裏に転がっていた「猫つぐら」という藁で作った猫の家を発見するんですよ。見つけた人がペット大好きな人でね、「これ欲しい」と言うわけです。でも村の人たちは昔、趣味的に作っていただけの物だから「こんなの商品になるのか?」と不思議がったわけです。じゃあこれを売ってみようかということで生産組合を作った。そしたら大体8千円から1万2千円で売れていくそうです。向こう5年間予約完売済みというヒット商品にもなりました。こうして特産品がひとつできた。あとは雑穀。アトピー性皮膚炎に悩む東京のお母さんたちのからの声で産地直送を行うための生産組合をつくりました。そうやって、高齢者がこれまで作ってきた、田舎の産物が高い評価を得て、都市の人々が買っていく。そういうことが広がっていきました。その結果、県平均を下回っていた農家1戸当たり農業粗生産額が、県平均と逆転をしてグッと上がって行くんです。


このような農産物や加工品を、物販や宿泊施設で都会の人たちに買ってもらうために、栄村では第3セクターの振興公社をつくり、ここが核となって、村の人たちが作った商品やサービスをできるだけ購入し、村をあげて都会に販売しています。振興公社の2001年度のデータでは、2億8千万を売り上げ、そのうちの70%を村内調達していました、つまり村内でできるだけお金が回る仕組みをつくっています。高橋さんは、これを「内部循環型経済」と呼んでいます。実は、この村内調達率という数字が出ること自体がすごいことです。京都市で京都市役所やその出資法人ががとれだけ市内調達してますか? と言っても数字が出てきません。栄村では、公的な調達先が村内か村外かをちゃんとチェックしているんですよ。これによって、自治体や第三セクターの地域貢献度が分かるんです。


これもまた、すごい話なんですけど、2000年度から介護保険制度が出て来るということで、ここの村では「下駄履きヘルパー制度」というものをつくっていきます。栄村では、雪に3ヶ月間閉じこめられてしまう集落が幾つかあるんです。そこで村民と議論したら、村民自身から「自分たちでヘルパー資格を取ろうじゃないか」という提案があったそうです。2500人弱の村で150人が当初手を挙げて、ヘルパー資格をとりました。それが今、200人を超えている。彼らは社会福祉協議会のパート職員として働くんです。そうすると、豪雪防災対策、福祉対策、現金収入機会、この三つの目標を同時に達成できるんです。これも住民提案です。


それだけではありません。長野県は一人当たり老人医療費が全国で一番低ことで有名です。戦後、長野県は乳児死亡率と成人病死亡率が一番高い県だった。そこで佐久総合病院などの厚生連の病院が中心になって、自治体と連携して訪問医療を始めたんです。予防医学の医療知識を普及していくわけです。いわゆるPPK運動、「ピンピンコロリ」運動です。人間は、最後まで生涯現役でピンピン働き、コロッとあの世い旅立つことが、一番幸せなことであり、大往生の条件と考えた運動です。その結果、長野県は全国の医療費の中で老人医療費が一番低くなった。栄村は、高齢化が県平均をはるかに上回っているのですが、一人当たり老人医療費は、県平均を下回っているのです。しかも、介護保険料と国民健康保険料基準額は県平均を下回り、県内最低水準です。みんな元気なんです。


このようなことは、京都市のような大きな自治体ではできないことです。栄村では、高齢者の力も活用し、また高齢者福祉事業も経済活動の一環としてとらえ地域の物的、人的資源をしっかり活かして、住民が主体的に協力しながら地域づくりができているわけです。


「何もない」といわれた栄村でも、このように地域の資源を発見し、それを活用し、産業化したり所得の源泉にすることで、ここまでできるのです。大都市には、小さな栄村よりもはるかにたくさんの住民や地域資源が存在しています。問題は、それを活用するような仕組みが、前にも言いましたように、地方自治体の規模が大きすぎて、できていないことにあります。こういうことが大都市でも可能になればもっと地域経済の振興は効果的に展開できますし、地域の担税力が高まると思います。


—今お話してくださったような例がある一方で、地域の人たちが何か産業を起こしていくという試みの全てが成功しているとは残念ながら言えないような状況だと思うんですが、何が問題だと考えられるのでしょうか?


日本では、明治時代から、各地で地域づくりの取組をしてきており、それがすべて成功するとは限らないことは歴史的にも明らかなことです。一人のリーダーが引っ張って一時的に成功しても、次が続かない。あるいは、気持ちだけがんばってみても、長続きしない。そのような問題を分析するなかで、地域づくりには経済的な法則性があるのではないかと考えるようになりました。その結論として「地域内再投資力」を考える必要があるということを僕はこの間言ってきています。地域づくりに際して、すごいリーダーに引っ張ってもらって頑張ればできるんだ、ということが最初言われる。でもそれは長続きしない。リーダーが元気が無くなったり、亡くなってしまったらそれまでなんです。


一番分かりやすい例が大分県の「一村一品運動」です。1980年頃から当時の平松知事が展開しはじめて、今では中国やタイにまで広がりをもっている運動です。その一村一品運動がどうなったのか? 一番売り上げ大きかったのは400億円超える焼酎でした。ところが、その焼酎メーカーがある市の人口も産業も全体としては衰退傾向になる。焼酎の原料は、どこのものをつかっているかというと、ほとんど海外産でした。。「一村一品」というのは要するに「一つの自治体で一つの特産物を有名にして売り込めば良い」という考え方です。とてもわかりやすい運動目標です。だから販売相手にしていたのは、大阪市場や東京市場、さらに海外だったんです。けれども、これでは地域のごく一部の企業の成長はあっても、地域経済全体の振興にはつながらないのです。これでは、「地域が活性化した」とはいえません。


実は、「一村一品運動」の一番の本家っていうのは大山町(現・日田市)と、もう一つは湯布院(現・由布市)です。大山町の農協がやったのが1960年代の「梅栗植えてハワイに行こう」という運動です。八幡さんという農協組合長が、農業基本法が制定されるなかで、「もうお米の時代は終わった」と認識するんです。大山は、中山間地域で、水田面積も狭い。そこでもっと付加価値の付くものにしようということで考えたのが、梅と栗だった。梅の方は梅干しや梅酒、色んな商品ができますからね。結果的に、「平成の大合併」が始まる前に、大山町は、人口当たりのパスポート保持率が日本の自治体のなかでトップになったんです。つまり、成功したわけですね。もちろん海外へ行ってただ遊ぶんじゃなくて、キブツ(イスラエル)などの協同組合のモデルを訪ねて勉強して帰って来るんです。大山の場合、実は、つくっているものは梅だけではありませんでした。町では「一村多品」という言い方していたんです。いろんな農産物を開発するために農協が研究所を持っている。そのうち中国産の梅が入って梅の価格は暴落するんですが、そのときに考えたのが木の花ガルテンだった。作っている人たちの顔が見える直売場を、町の中と、福岡市内、大分市内、別府市内に作るんです。それだけじゃなくて工芸品も含めて多品種お商品を色々と並べています。これはすごく面白い。販売額が1千万円以上の農家が100戸を超えるようになっていくわけです


一方、湯布院の方は、できるだけ別府のような観光地になるのを避けようとした。どういうことかというと、別府は大規模なホテルや旅館が観光客を囲い込もうとする。街にお客さんが出ていかない。だからすごく寂れた街、犯罪の多い街ができた。すると女性客がリピーターにならない。だから湯布院は別府型ではない、まったく別の方向の地域づくりをやろうということで、1970年代に震災が起きたあとの復興運動の中で、由布院の最大の資源が自然景観と農村景観であるという認識に達して、それらを大事にしていこうとしたんですね。農村景観を守るためには、農家が作るお米とか野菜をたとえ高くても旅館やホテル飲食店が買おうじゃないかと考えます。これによって、農家の経営も農地も保全されて、農村景観も維持できます。もう一つは「泊食分離」です。連泊する際には1日目はそのホテルで食べてもらう。でも2日目に、例えば蕎麦が食べたかったら「こういう蕎麦屋さんがありますよ」と紹介するんです。これを、観光業界全体の取組として展開していきます。こうすることで、まちに人が出て、まち全体が潤うことになります。


さらに1990年に「潤いのあるまちづくり条例」が制定されます。日本で初めて「成長の管理」という概念が入った条例です。建築基準法を上回るきわめて厳しい条例を作って、NHKのプロジェクトXでも紹介されたように、当時の建設省と大喧嘩したうえで制定するわけです。例えば「建ぺい率」という概念は法律用語なので、条例で法律を超える規定はできないんだけども、「空地率」のような概念を作ってやれば、実質的には建ぺい率規制を高めることができるわけです。そういうかたちで、高さや色合い、そして形なんかを規制していくわけです。こうして、最大の地域資源である由布岳の麓に広がる自然景観と農村景観を、住民と自治体が協同して保全する体制を整えていきました。


そのうえで地域でお客さんが町に出て、買い物をしてくれる、そしてそのお金が地域内に循環する仕組み作りをやっていくんですね。湯布院で買ってもらう土産物は、できるだけ湯布院産の農産物を使い、それを加工するようなかたちで湯布院の菓子屋さんが作る。作った菓子は湯布院の箱屋さんが作った箱に入れて、デザインも湯布院にいるデザイナーがつくった包装紙に包んで売る。そういう仕組みをつくると、観光客がお土産に使ったお金が小売店に落ち、箱屋さんに落ち、デザイナーに落ち、そして農家に落ちるんです。地域にお金が循環していくんです。先ほどの栄村の「内部循環型経済」が、意識的に組織されているわけです。


合併前のデータですけれども、バブルが崩壊した1990年から95年にかけて京都市は観光客数も消費客も製造費販売額も全部大激減でした。でも湯布院は右肩上がりなんです。バブル崩壊後も自然景観が守られて、農村景観が守られて、地域資源の魅力が高まり、女性客を中心にリピーターが増える。しかも観光客と観光消費額と消費販売額、製造費出荷額、全部連動して好循環を実現している。これが2004年にどうなっているかということを、私も関わって調べました。観光協会と一緒に地域内産業連関表を作ってみたんです。町内にある旅館やホテルからサンプリングをして、どこから物を調達しているか、どこから雇用を調達しているか、金額も含めて細かく聞いてシュミレーションしてみました。当時の湯布院町全体の総生産が500億円として280億円近くが実は観光誘発なんですよ。雇用で言うと7割。地域の外に出る者が極めて少ないことが分かります。


—これまでの地域開発や地域活性化、まちおこしの問題点を乗り越えるために、地域内での循環が必要とされるわけですね。 


そうです。しかし翻って京都は、お土産物一つとっても、例えば中国製の商品が多くなっています。お金の流れを考えると、おそらく大手商社が多くの利益を持っていってしまう。だから京都内に循環しないんですね。ホテルはどうかと言うと、大きなホテルはほとんど外資系企業が買い取ってきています。地元系のホテル、旅館は大激減です。観光客5000万人来たら豊かになるっていうことを言われるんだけど、これはまったくのデタラメです。観光客の落とすお金は京都市内に循環せずに東京や外国の本社に集中していく。だからそういうところまでとらえた上での地域づくりや都市計画づくり、観光政策づくり、仕掛けづくりが必要なんです。残念ながら市役所も議会もそこまでは見えてない。ここに最大の問題があります。
  

そしてこれは京都に限りません。「道路や港などに公共投資をして企業誘致をしたら活性化するだろう。」これが、これまでの日本の地域開発の基本モデルです。大規模公共投資をして道路を作る、あるいは港湾を整備する。空港を整備して補助金を積んで企業誘致をやったら地域は活性化するんだ、と新産業都市からリゾート開発までやってきた。にもかかわらず、ほとんどすべての地域でうまくいかなかった。「なぜ活性化しなかったのか」こそ、私達が学ぶべきポイントなんです。大規模公共投資をやったとしても、東京や大阪に本社を置くゼネコンが受注してしまう。しかも、素材の鉄鋼とかセメントはどこが供給するかというと、新日鐵等結局東京に本社があるところです。現に京都市の遷都1200年記念事業の京都駅ビルを1500億円でつくりましたが、ほとんどが鉄骨なんですね。そして2500億円を使った地下鉄。これもまた、受注してるのはほとんど市外企業です。巨大な金額が地方自治体によってなされましたが、地域内には循環していかない。「するっと関西」じゃないけど、するっと東京などに流出してしまう。あとに残るのは、借金だけでになり、その返済のために地方財政危機になる。結局、それを乗り越えるために、税金や保険料、あるいは地下鉄運賃などが上がる構造です。


加えて、企業を誘致したとしても、本社がある限り、収益の大半は本社のある東京に集中してしまう。東京には、生産額比率をはるかに超える法人所得が集中しています。その所得を生み出したのは地方にある工場や支店、支社であり、そこで働いている住民たちなのに。だから地域経済の波及効果も企業誘致ではなかなかできないわけです。誘致できたとしても、工場が縮小、あるいは撤退してしまう。これは大型店についてもいえます。よく「焼き畑商業」という言い方がされますが、消費購買力を失った地域から簡単に撤退しちゃうんです。大きなお店では、3年でほぼ初期投資は回収できるといわれています。そこから先、その場で再投資を繰り返すかどうかはよく分からない。


そこでどういうことを全国ではじめているかと言うと、福島県とか、熊本県では一店舗単位でどれだけ地域貢献をしているかを測っている。雇用だけじゃなくって、そのお店にどれだけ地元の物を置いているか。農産物や加工品も含めて、地元からいかに調達しているかを評価して、公表しましょう、と。市民はそれを見ながら店を選ぶことができるし、それによって大型店の地域貢献を誘導する意味をもっています。これはアメリカでもやっていることです。


そういう大型店の誘導的な規制によって、地域における再投資力として貢献できるような外部企業にしていく。外部企業は全部ダメだ、ということではなくて、むしろ地域貢献度が高い外部企業にしていくことによって地域全体の投資力が増していくこともあるわけです。そのためにも賢い消費者になる必要がある。元々京都の事業所のうち99%が中小企業事業所であり、それらが毎年毎年投資を繰り返して地域経済が成り立っています。「地域内再投資」と私が言うのは、その地域内に本社機能があって投資を繰り返すということです。販売先は京都市内であっても京都市外であっても、海外でもかまいません。投資をしたリターンは必ず本社に戻って来る。その経済的な力を量的にも質的にもいかに作っていくか。そのため一番効果的なのは湯布院のような、あるいは栄村のような、地域の資源を活かしながら、経済主体のネットワーク張っていくことではないかと思います。そこで、地域内で産業連関をつくり、資金の回転数を上げていくんです、そうしたら所得も雇用も創出されていきます。そのような方向で地域づくりを行うことが大事ではないかと思っています。


—ありがとうございます。最後に、地域経済学の観点から建築との交差点についてどのように見ていらっしゃいますでしょうか?


なかなか難しい質問ですが、身近な例をだしてみます。私の知り合いに建設・不動産業の社長さんがおられます。彼は「京都こだわり住宅」を謳って、京都の部材や指指物を使ったりして、私の言う「地域内再投資論」を応用した事業を、仲間と共同しながら実践しています。そういうやり方をすれば、大手のハウスメーカーが外材を持ってきて、プレハブ住宅を作っていくのとは全く違う地域経済効果が生まれてきます。私は、自治体が、このような取り組みに対してもっと協力すべきではないかと考えています。行政が意識的に支援をして、経済主体が自分たちでそういうことができるんだ、良い物ができるんだ、となれば住民はそれを受け入れてくれる。こういうことになっていけば、たいぶ違う京都が生まれて来るんじゃないかと思うんです。


もう少し理論的な話になるのですが、経済地理学者であるデイヴィッド・ハーべイが、資本が都市を形成する際に、もっとも重要なのは、土地に固定した構造物(道路や建物)からなる「建造環境」であると指摘しています。土にくっついた道路、あるいはビル。ビルの中には学校や工場、商店も全部入ってきます。それらが府工合化して、都市景観をつくる。しかもそれは資本の固まりです。つまり、公的な資本であれ、民間資本であれ、建造環境はすべて資本投資をしてつくったものです。その組み合わせが都市景観であるととらえるとき、都市の形成というのは、すごく面白い内容をもちます。時代ごとに生産力や技術水準が違う。これは不可逆的であり、素材生産や建築技術の発展に規定されています。つまりそれぞれの経済段階に対応したものしか、時代ごとに作れないわけです。鉄筋コンクリートの構築物は、大正期以降の産物であり、それ以前は木造の建築物からなる都市景観ですね。つまり経済の動きと、建築、都市景観の形成というのは、密接な関係にあると、私は考えています。


京都も、基盤産業であった西陣・室町の織物業が崩れ、新たに期待された金属機械系企業も海外に拠点工場を移し、さらに観光業についても、先ほどから言ってきているように、観光客が増えても、地域内への経済循環が期待できない状況になっています。そのなかで、都市景観を整備するために景観条例が強化されましたが、これが果たして、地域内再投資力を高めるのか否かについては、はなはだ疑問です。地域経済政策と都市景観、建築に関わる政策とは、地域では一体となっていますので、相互に結びついた形で立案、執行されなければなりません。その上で、地域経済学と建築分野の皆さんとの関係は、これまで以上に強まらざるを得ないのではないかと考えています。(了)




岡田 知弘(おかだ ともひろ)
1954年、富山県生。京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了後、岐阜経済大学講師、助教授を経て、京都大学経済学研究科教授。現在、京都大学公共政策大学院教授を兼任。専門分野は、地域経済学、地域開発論、地方自治体論

○主要著作
『日本資本主義と農村開発』法律文化社、1989年
『地域づくりの経済学入門』自治体研究社、2005年
『道州制で日本の未来はひらけるか』自治体研究社、2008年
『一人ひとりが輝く地域再生』新日本出版社、2009年
『中小企業振興条例で地域をつくる』(共編著)自治体研究社、2010年
『TPPで暮らしと地域経済はどうなる』(共編著)自治体研究社、2010年